「やらぬも相場」
相場の世界で、古くから語り継がれてきた、あまりにも有名なこの言葉。 無駄な戦いを避け、好機を待つ。これこそが、市場で生き残るための、普遍の真理です。
先日、私の発信に、この言葉を引用した、非常に鋭いコメントをいただきました。
「基本的にはレンジで戦うべきではない、と。しかし、daitoさんはレンジ戦略について語っている。これは、矛盾していないか?」と。
素晴らしい問いです。 そして、その答えは「はい。9割のレンジは、あなたが足を踏み入れるべきではない、ただの“地獄”です」であり、同時に「しかし、残りの1割には、プロだけが見つけ出せる“金脈”が眠っている」です。
この記事では、相場の古くからの教えを「絶対の真理」として尊重した上で、私が「それでもなお、あえてレンジで戦う理由」と、その「戦うべきレンジ」と「逃げるべきレンジ」を完璧に見極めるための、プロの「眼」について、全てをお話しします。
第1章:9割のトレーダーが死ぬ「罠」- あなたが絶対に手を出してはいけないレンジ
まず、明確に定義します。以下の特徴を持つレンジ相場は、あなたが戦うべき「リング」ではありません。それは、ただあなたの資金と自信を奪い去るだけの、危険な「罠」です。
- 法則性のない、予測不能なレンジ:値動きがランダムで、明確なサポート/レジスタンスが見いだせない、混沌とした相場。
- 値幅が狭すぎる、コスト負けするレンジ:たとえ法則性が見えても、あなたが利用するプラットフォームのスプレッドと手数料を支払った後、ほとんど利益が残らないような、小さな値幅のレンジ。
これらのレンジで戦うことは、期待値がマイナスのギャンブルに他なりません。「やらぬも相場」の教えに従い、静かに見送るのが、唯一の正解です。
第2章:プロだけが知る「金脈」- 私が戦うことを“許された”レンジ
では、残りの1割、私が「金脈」と呼ぶ、戦う価値のあるレンジとは何か?それは、以下の条件を完璧に満たした、美しい「秩序」を持つレンジです。
① 法則性が見える、美しいレンジ
4時間足や1時間足といった、より大きな時間軸で、誰の目にも明らかな、水平なサポートラインとレジスタンスラインに、何度も、そして綺麗に反発している。市場参加者の総意が、そこに「壁」の存在を認めていることが、明確に見て取れるレンジ。
②【最重要】リスクを超えるリターンが見込める、広大なレンジ
これが、プロとアマチュアを分ける、最も重要な判断基準です。
私は、「リスクリワードが1.5倍以上」といった、単純な数字では判断しません。 私が問うのは、「このレンジの値幅は、15分足以上の時間軸で戦うことを前提とした上で、私が支払うべき取引コスト(スプレッドと手数料)を吸収し、なお有り余るほどのリターンを、私にもたらしてくれるのか?」という、極めて実践的な問いです。
たとえ小さな利益が取れそうでも、取引コストを差し引いた後の期待値が、そのリスクに見合わないと判断すれば、私は決して引き金を引きません。
第3章:それでも、なぜレンジは「ゲキムズ」なのか? – スナイパーへの勧め
しかし、と、ここで私は正直に告白しなければなりません。 たとえ、この「戦うべきレンジ」を完璧に見極めたとしても、その攻略難易度は、トレンドフォローに比べて桁違いに高い。
なぜなら、レンジは常に「騙し」のブレイクという、裏切りのリスクを内包しているからです。
なので、もしあなたが、規律を持って「待つ」ことができる賢明なトレーダーであるならば、わざわざこの茨の道(レンジ)を歩む必要はありません。トレンドという、より安全で、より大きなリターンが期待できる『王道』を進むことを、私は強く推奨します。
結論:なぜ、私はそれでもこの“地獄”で戦い続けるのか?
では、なぜ、私はそれでもこの「ゲキムズ」のレンジに挑み続けるのか?
それは、私が「秒スキャを愛してしまった、ただの戦闘狂(バトルマニア)」だから、というだけではありません。
レンジ相場は、多くのトレーダーにとっては「墓場」ですが、真理を探求する者にとっては、「宝の山」でもあるからです。特に、レンジの上限・下限に価格が3回目にタッチする瞬間。そこは、多くの市場参加者が意識し、反発の優位性が極めて高まる「黄金の狙撃ポイント」となり得ます。
そして、それだけではない。そのレンジという「静寂」は、次なるトレンドという「嵐」の前触れでもあります。この3回目のタッチからの反発を狙うという行為は、単なる逆張りではなく、もしレンジがブレイクされた場合、トレンド発生の「本当の初動」を、誰よりも早く掴むという、究極のボーナスステージへと繋がる可能性を秘めているのです。
もちろん、それは非常に難しい。
しかし、私は研究者です。この、最も難解で、しかし最も美しい市場のパズルを解き明かすため、おそらく、これからもずっと、この地獄に挑み続けるでしょう。
この記事は、あなたにレンジでの戦いを安易に勧めるものではありません。 むしろ、その危険性と難しさを伝え、あなたがトレンドという王道に集中するためのものです。
しかし、もしあなたが、私と同じように、茨の道を歩むことを選ぶ、少数の「探求者」であるならば…。
私の『精密ボクサーの神髄』の記事が、あなたのその、いばらの道を照らす、小さな灯火となるかもしれません。