【正下文子】89歳”女帝”の22億円詐欺事件 – 誰で何者?その驚くべき手口と現在【第一生命の元トップ営業社員】

【正下文子】89歳”女帝”の22億円詐欺事件 – 誰で何者?その驚くべき手口と現在【第一生命の元トップ営業社員】

2024年8月13日

【正下文子】89歳”女帝”の22億円詐欺事件 – 誰で何者?その驚くべき手口と現在【第一生命の元トップ営業社員】

89歳”女帝”の正体 – 第一生命の元トップ営業社員

驚異的な経歴を持つ”女帝”とは誰か【正下文子】

2020年10月、金融業界を震撼させる事件が発覚しました。第一生命保険の元営業社員、89歳の女性が起こした22億円規模の詐欺事件です。この事件の主犯は、山口県周南市を拠点に50年以上もの長きにわたり第一生命で勤務し、「特別調査役」という特別な地位を与えられた人物でした。地元では”女帝”と呼ばれ、政財界に広い人脈を持つ超有名人だったといいます。

この”女帝”の正体は、正下文子という名の女性です。彼女は第一生命でトップクラスの「成績優秀者」として知られ、「上席特別参与」という特別な肩書きも与えられていました。全国に4万4000人以上いる営業職員の中で、この肩書きを持つのはわずか十数人だけだったといいます。

正下文子は、単なる優秀な営業社員ではありませんでした。彼女は長年にわたり、地元の政財界に深く根を張り、強大な影響力を持つ存在となっていたのです。ある市議は「周南の政治家で名前を知らない人はいない」と話すほど、彼女の知名度は抜群でした。

異例の待遇 – なぜ89歳まで正下文子は現役だったのか

第一生命の営業職員の定年は65歳で、80歳まで1年更新の勤務が可能という規定があります。しかし、正下文子は89歳になっても「特別調査役」として勤務を続けていました。この「特別調査役」という役職は、彼女一人のためだけに設けられたものだったのです。

このような異例の待遇が与えられた背景には、彼女の圧倒的な営業成績がありました。正下は数百人もの顧客を抱え、その多くが地元の名士や富裕層だったといいます。彼女の影響力は絶大で、勤続50周年を祝う祝賀会には地元政財界の有力者が多数出席したといいます。

さらに、正下は地元の金融機関や地元放送局のトップとの親密さをアピールし、地方選挙の有力候補の応援も行っていたとされています。こうした幅広い人脈が、彼女の営業成績を支える大きな要因となっていたのでしょう。

22億円詐欺事件の全容 – 驚くべき手口とその影響

巧妙な詐欺の手口

正下文子の詐欺の手口は非常に巧妙でした。彼女は顧客に対し、「第一生命には自分のようなトップセールスマンだけが持つことのできる特別枠口座があり、お金を預ければ高い利息がつく」と持ちかけていました。

例えば、ある被害者の場合、亡くなった母親の死亡保険金5000万円を受け取った際、正下から「第一生命の特別枠」に預ければ10%の利息がつくと言われ、騙されてしまいました。正下は「これは長く契約してくれていたお母さんへの恩返しです」と母親の名前を持ち出し、被害者の心を巧みに操ったのです。

また、別の被害者には「第一生命の上層部しか知らない特別枠がある」という「あなただけに教える」という特別意識を植え付けるような話をした上で、「まだ運用枠が残っています」「預けてくれれば3割の利息をつけて、半年で元利弁済します」と持ちかけ、1億8000万円をだまし取っています。

正下の手口の特徴は、真実に嘘を混ぜるという巧妙なやり方でした。例えば、最初に第一生命の実際の商品である「すえ置金」制度について説明し、その後に架空の「高金利の特別枠口座」の話を持ち出すといった具合です。これにより、嘘が見抜きづらくなっていたのです。

被害の広がり

この詐欺行為は10年以上前から行われており、被害者は25人、総額は約22億円に上ることが明らかになっています。被害者の多くは地元の名士や富裕層でした。

正下は地元の政財界の有力者とのコネを誇示し、富裕層に食い込んでいったとされています。彼女の影響力は非常に大きく、ある大手銀行支店の行員は「県内有力企業の社長室で会った。第一生命の分室には専用の部屋まで用意してあったと聞く」と証言しています。

さらに、正下は被害者に対して様々な心理的テクニックを用いていました。例えば、ある被害者のもとに国会議員の妻と秘書を連れてきて、亡くなった夫の墓前に線香をあげさせたり、高級なお中元を届けたりしていました。これは被害者に恩を売ることで、何かしらのお返しをしたいという気持ちにさせる「返報性の法則」を利用したものと考えられます。

なぜ長年発覚しなかったのか – 第一生命の管理責任

3年前の調査で見逃された可能性

驚くべきことに、この詐欺行為は3年前に調査の機会があったにもかかわらず、見逃されていたことが明らかになりました。2017年、地元の山口銀行が「特別枠」について第一生命に問い合わせをしていたのです。

山口銀行の融資担当者が、取引先から「特別枠」の勧誘を受けたという話を聞き、不審に思って第一生命に連絡したのでした。これを受けて第一生命は、正下本人や徳山分室の同僚、勧誘された取引先らに聞き取り調査を行いました。

しかし、調査の結果、いずれも「聞いたことがない」などと否定。山口銀行に再度確認したところ、「うわさ話を問い合わせただけ」と言われたため、第一生命は調査を打ち切ってしまいました。その後も正下は複数の顧客からお金を集め続け、被害は拡大していったのです。

第一生命の管理責任を問う声

この事件を受けて、第一生命の内部管理体制の適切さが厳しく問われています。10年以上にわたる不正を見逃した第一生命の管理責任を問う声が上がっているのです。

第一生命は2020年末に報告書を公表し、「多くのお客さまのご契約をお取扱している営業員(以下、優績者)の特権意識を醸成させてしまったことや、当社社員による優績者への遠慮意識など、企業風土や体質そのものにも問題があったと認識している」と認めています。

金融庁は第一生命に対して保険業法に基づく報告徴求命令を出しており、今後の行政処分の可能性も示唆されています。第一生命は全容解明と再発防止に取り組む方針を示していますが、顧客を含めた当事者が否定する中で、営業職員を管理することの難しさが改めて浮き彫りになりました。

現在の状況と今後の展開

刑事告発と民事訴訟

正下文子は2020年7月3日付で第一生命から解雇され、同年8月に山口県警へ詐欺容疑で刑事告発されました。2021年5月19日には、1.8億円の詐欺容疑で書類送検されています。

一方、被害者の一部は第一生命に対して民事訴訟を起こしています。例えば、周南市に住む女性2人は2020年7月と9月、損害賠償や寄託金の返還を求める民事訴訟を山口地裁周南支部に起こしました。

しかし、訴訟の進行は難航しているようです。第一生命側は「元職員が個人的に行った詐欺行為。会社は行為の存否を知るうる立場にない」と主張し、請求棄却を求めています。

認知症の診断と成年後見人の選任

興味深いことに、正下文子側は認知症の診断を受けて訴訟能力がないとして、成年後見人の選任を申し立てています。2021年2月には兵庫県内の弁護士法人が成年後見人に選ばれ、正下の法定代理人となっています。

この展開により、今後の刑事裁判や民事訴訟がどのように進んでいくのか、注目が集まっています。認知症の診断は、正下の刑事責任能力にも影響を与える可能性があり、裁判の行方に大きな影響を与えるかもしれません。

事件の背景と社会的影響

バブル期の負の遺産?

正下文子がだまし取ったお金の使途については、様々な憶測が飛び交っています。一説には、バブル期の投資の失敗で多額の借金があり、その返済に充てていたのではないかと言われています。

もしそうだとすれば、この事件はバブル経済崩壊後の負の遺産が、30年近く経った今になって表面化したものと言えるかもしれません。また、借金返済のために闇金などの反社会的勢力からも資金を調達していた可能性も指摘されており、事件の全容解明が待たれるところです。

金融機関の企業文化への警鐘

この事件は、金融機関の企業文化にも一石を投じています。第一生命は正下に特別な肩書きを与え、優遇していましたが、適切な監督や指導を行っていませんでした。これは、優秀な営業職員に対する過度の信頼と、その結果としての管理の緩みを示しています。

また、この事件は2019年に発覚したかんぽ生命保険における不正・不適切な契約問題とも重なる部分があります。顧客と真摯に向き合おうとしない会社の姿勢が、保険業界に次々と見られることは極めて残念なことです。

被害者の声と潜在的な被害の可能性

被害者の一人は「表に出られず、泣き寝入りされている方は多数いるはずです」と話しています。今回明らかになった被害は氷山の一角である可能性があり、世間体を考えて声を上げられない被害者も多数いる可能性があります。

特に、被害者の多くが地元の名士や富裕層であることを考えると、詐欺被害に遭ったことを恥じて公にしない人も多いのではないかと推測されます。

まとめ – 89歳”女帝”が残した教訓

この事件は、金融機関の内部管理の重要性を改めて浮き彫りにしました。同時に、いかに名声や地位のある人物であっても、その言葉を鵜呑みにせず、常に慎重に判断することの大切さを私たちに教えてくれています。

22億円という巨額の被害をもたらした89歳の”女帝”。その驚くべき手口と長年にわたる詐欺行為は、金融業界に大きな衝撃を与えました。今後、第一生命がどのような再発防止策を講じるのか、また、被害者救済がどのように進められていくのか、引き続き注目していく必要があるでしょう。

さらに、この事件は高齢者の雇用と管理という問題も提起しています。正下文子のような優秀な人材を89歳まで雇用し続けることには一定の意義があったかもしれません。しかし、その一方で適切な管理体制を構築できなかったことが、このような大規模な詐欺事件につながってしまいました。

今後、金融機関は顧客の利益を最優先に考え、たとえ優秀な社員であっても適切なチェック体制を構築することが求められるでしょう。また、私たち一人一人も、「うまい話」には常に警戒心を持ち、自分の資産を守る意識を持つことが大切です。

89歳の”女帝”が起こした22億円詐欺事件。この事件が私たちに残した教訓を、しっかりと心に刻んでおく必要があります。