「この後、相場は上がるのか、下がるのか?」
多くのトレーダーが、この問いの答えを探し、チャートに張り付き、未来を予測しようとします。しかし、断言します。その思考こそが、あなたを敗者へと導く最大の罠です。
相場の未来は、誰にもわかりません。
では、プロは何をしているのか? 彼らは未来を予測しているのではありません。無数のノイズの中から「今、優位性がどちらに傾いているか」という、確率の偏りを見つけ出し、その一瞬の波に乗っているだけなのです。
そして最も重要なのは、その波に乗れなかった場合(=ノイズだった場合)に、いかにして傷を負わずに(損失ゼロで)撤退するかという技術です。
この記事は、あるトレーダーが行った一つのトレード実例を、実際のチャート画像と共に深く掘り下げ、「予測するトレード」から「優位性に乗るトレード」へと、あなたの思考を根本から変革させるためのものです。
第1章:戦場分析 – 神の眼で要撃地点(キルゾーン)を定める
全ての戦いは、戦場を俯瞰することから始まります。今回のトレーダーは、長期足で市場の大きな構造を把握し、15分足を主戦場として短期的な分析を行っていました。
彼の狙いは「レンジ相場の上限ブレイク」。そして、ブレイク後に発生するであろう「押し目」で買いエントリーすることでした。彼は、VWAP(赤ライン)や複数の抵抗線が重なる緑のゾーンを、勝負の分かれ目となる「要撃地点(キルゾーン)」として設計していました。
第2章:規律と見送り – 『三重の審判』が下す「待て」の命令
そして、最初のチャンスが訪れます。







画像が示す通り、最初のチャンスが訪れます。レンジをブレイクした後、価格が一時的に下落し「押し目」を形成。15分足のチャート(画像1枚目左)では、長い下ヒゲをつけた陽線が出現し、強い買いサインを示唆しています。
しかし、彼はここで引き金を弾きませんでした。なぜなら、より短期の1分足チャートで、エントリーを確定させるためのダメ押しのサインが出なかったからです。これは「未来を予測する」のではなく、「現在の優位性が確定するのを待つ」という原則に忠実な行動です。
その後、2本目の下ヒゲが出現し、「連続ヒゲ(Consecutive Wicks)」という、さらに強力な買いパターンが形成されかけます(画像1枚目中央)。非常に期待が持てる展開でしたが、これも最終的に買いの勢いが確定しなかったため、彼は冷静にスルーしました。
彼は、自身が設定した緑のゾーン(画像1枚目右)という、複数の抵抗線が重なる「要撃地点(キルゾーン)」を明確に超えるまではエントリーしない、という規律を徹底していたのです。
第3章:一瞬の油断、そして「予測」に基づいたエントリー
規律を持ってチャンスを待ち、次のシナリオを冷静に分析していたトレーダー。しかし、ほんの一瞬チャートから目を離した隙に、事態は急変します。

ここで一旦わかりやすいようにチャートを見やすくします。また、このとき目を話しており、気づいたら下記のようになっていました。





この確定足で上の圧力が確認できないっ場合はこちらで損切ります。

気づいた時には、価格は彼が最重要視していた「要撃地点」を明確に突き抜けていました。絶好のエントリーチャンスを逃してしまったのです。
「出遅れた…!」
本来、このような高値掴みになりかねない「飛び乗りエントリー」は、規律違反です。彼も一旦は冷静になろうと、再度押し目を待つ姿勢を見せます(画像2枚目中央)。
しかし、ここで彼の心に「このまま上昇トレンドに乗り遅れてしまうかもしれない」という、未来への期待と恐怖(FOMO)が生まれます。
そして彼は、本来のルールを曲げてエントリーに踏み切ります。その判断を正当化するために、彼はいくつかの根拠を見出しました。
- 根拠①: ローソク足が強い陽線「マルボウズ(Marubozu)」に類似しており、買いの勢いが非常に強いと判断。
- 根拠②: 15分足のフィボナッチ・リトレースメントで価格が反発していた。
これは、厳格なルールに基づく高勝率の『アサシン』としてのトレードではありません。大きなトレンドの発生を期待し、リスクを取って初動を狙う『スナイパー』としての、不利な位置からのエントリーでした。彼は自覚的にリスクを取り、「この確定足で上昇の圧力が確認できなければ即座に損切る」という覚悟を持って、この戦いに挑んだのです。
第4章:究極のリスク管理 – 『不死鳥の法典』の発動
エントリー後、相場はすんなりとは上昇しません。ポジション保有中のトレーダーの葛藤と分析が、次の画像群に記録されています。




とはいえ、15分足のプライスアクションが逆のサインで確定したら即損切りです。
本来はこのエントリーは建値決済で撤退しているのがルールです。あので、このあとのエントリーチャンスが来たらエントリーが本来のルールです。



はい、その通りです。その画像を使い、記事の核心部分を続けます。
予測に基づいたリスクの高いエントリーの後、トレーダーはすぐに逆風にさらされます。
30分足や15分足ではまだ方向感が定まらない中(画像3枚目上段)、5分足チャートでは下落を示唆する「逆の連続ヒゲ」が出現。これは強い売り圧力のサインであり、思わず損切りしたくなる危険な場面です。
しかし、ここで彼は短期的な値動きに惑わされませんでした。より大きな上昇の衝動がまだ続いていると分析し、「これは、短期的な売りポジションを損切りさせながら上昇していくためのダマシの動きではないか」と考え、ポジションを保有し続けます。
ただし、彼自身がテキストで「本来はこのエントリーは建値決済で撤退しているのがルールです」と告白している点に注目してください。彼は、ルールを曲げてリスクを取っていることを明確に自覚していたのです。だからこそ、「15分足で逆のサインが確定したら即損切りする」という絶対的な防衛ラインを心に決めていました。
その後、15分足が保有継続のサインで確定し(画像3枚目下段左)、彼の分析通り価格は上昇。ついに抵抗線を上抜けます。
未来を予測し、その予測が当たった瞬間。多くのトレーダーが「どこまで利益を伸ばそうか?」と欲望に心を奪われる場面です。しかし、彼の思考は違いました。
テキストが示す通り、彼が考えたのは「この押し目が終わったら建値決済を設置する」ことでした。
利益を追い求める前に、まず「負けない状況」を作り出す。これこそが、予測が当たろうが外れようが生き残り続けるための究極のリスク管理術『不死鳥の法典』なのです。
第5章:結末 – なぜ「損失ゼロ」が最高の「勝ち」なのか
そして、このトレードは結末を迎えます。トレーダーは自身のルールに従い、リスクを回避するための決断を下しました。




今回は難しい事例でしたが、このような決断を毎回行い。スナイパーの場合には伸びたら嬉しいな位の気持ちです。アサシンのみは高確率で取引します。
この場合にはショートの根拠を大きく否定してきたらエントリーを考えるか、押し目を終えて再度上昇するときにエントリーを考えます。
これがトレードの現実です。

チャートを常時監視できない状況になったため、彼はルール通り、エントリー価格にストップロスを置く「建値決済」を設定しました。
そして、その後の結果が画像に示されています。
価格は再上昇の勢いを失い、下落。建値に置かれたストップロスに掛かり、このトレードは利益ゼロ、損失ゼロで強制的に終了させられました。
もし利益を追い求めていたら、「もったいなかった」と感じるかもしれません。しかし、その後のチャートの展開が、この判断がいかに正しかったかを証明しています。
価格が建値で決済された後、15分足では明確な下落サイン(ショートの抵抗)が確定。相場は上昇のシナリオを完全に否定し、下落へと転じました。
そして、数時間後の結論です。
ブレイクは「ダマシ」に終わり、相場は再び方向感のないレンジ相場へと回帰していました。
もし、彼が「負けないポジション」を構築するという規律を破り、「もっと利益が伸びるはずだ」という未来への期待(予測)に固執していたら、このトレードの結果は間違いなく「損失」で終わっていたでしょう。
結論:予測家から、規律ある執行者へ

今回のトレード事例は、私たちに極めて重要な真実を教えてくれます。
- 未来予測は危険な罠である: 「ブレイクしたから、もっと上がるはずだ」という予測は、結果的に外れました。相場の未来は誰にもわかりません。
- 優位性とは一瞬の波である: ブレイクした瞬間、確かに買いの優位性は高まりました。しかし、その波はすぐに消えました。重要なのは、その波が消えた時にいかに早く気づき、撤退するかです。
- 最高の技術は「負けないこと」: 利益を出すことよりも、損失を出さないことの方が何倍も重要です。今回の「建値決済」は、予測が外れたにもかかわらず、資金を1円も減らさなかった最高のプレーでした。
もしあなたが今、チャートの先にある未来を読もうと苦しんでいるのなら、今すぐその思考を手放してください。
代わりに、常に自分にこう問いかけるのです。
「今、この瞬間、優位性はどこにあるのか?」
「もし自分の考えが間違っていたら、どうやって最小のダメージで撤退するか?」
優位性という波に乗れたら、感謝して利益をいただく。
波が来なければ、損失ゼロで静かに次を待つ。
その淡々とした規律の繰り返しこそが、あなたを感情的なギャンブルから解放し、長期的に生き残るプロフェッショナルなトレーダーへと進化させる、唯一の道なのです。